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大阪高等裁判所 昭和32年(ネ)42号 判決

控訴人(反訴原告) 金城隆四 外一名

被控訴人(反訴被告) 浜中重太郎

主文

本訴について、本件控訴を棄却する。

反訴について、控訴人(反訴原告)等の反訴を却下する。

控訴費用竝に反訴費用は控訴人(反訴原告)等の負担とする。

事実

控訴代理人は本訴について「原判決を取消す。被控訴人(反訴被告)の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人(反訴被告)の負担とする。」旨の判決を、反訴について「被控訴人(反訴被告)は、原判決添付目録記載の不動産について大阪法務局江戸堀出張所、昭和二十九年十一月十七日受付第一五五四六号を以てなした所有権移転登記の抹消登記手続をしなければならぬ。訴訟費用は被控訴人(反訴被告)の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は本訴竝に反訴について主文と同旨の判決を求めた。

被控訴代理人は本訴請求原因として「原判決添付目録記載の不動産は元訴外寺川敏夫の所有であつて、昭和二八年六月十二日、受付第七一七九号を以て右寺川より訴外田口義雄に対する昭和二十七年十一月十五日売買を原因とする所有権移転登記がなされたが、右登記原因たる売買は、当事者間の通謀による虚偽の意思表示で無効であり、従つて右不動産の真実の所有者は引続いて寺川であつたところ、被控訴人(反訴被告、以下単に被控訴人と称す。)は昭和二十八年六月二十二日寺川より、右不動産を代金百二十七万七千円で買受け代金全額の支払を了してその引渡を受けたが、その所有権移転登記については、大阪法務局江戸堀出張所、昭和二十九年十一月十七日受付第一五五四六号を以て、登記名義人田口より直接に所有権移転登記を経由した。然るに右田口はこれより先に、本件不動産の登記が自己名義となつているのを奇貨として、昭和二十九年九月二十日訴外株式会社日証(以下単に日証と称す。)より借受けた金二十万円の債務担保のために、同年九月二十七日受付第一三〇五二号を以て、抵当権設定登記を経由すると共に、同日受付第一三〇五三号を以て、同月二十日附売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記を経由していたところ、その後田口は、控訴人両名より資金の融通を得て、日証に対する右債務を完済した。よつて日証は田口に対して、前記抵当権設定登記竝に所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続に要する委任状を交付したところ、控訴人(反訴原告、以下単に控訴人と称す。)両名は田口と共謀の上、単に抵当権設定登記だけの抹消登記手続をなし、前記所有権移転請求権保全仮登記については、昭和二十九年十一月十七日受付第一五五三二号を以て、日証より控訴人両名に対する昭和二十九年十一月十五日附譲渡を原因とする移転の附記登記を経由し、次で昭和三十年二月十九日受付第二〇二五号を以て、田口より控訴人両名に対する昭和二十九年十一月十五日附売買を原因とする所有権移転登記を経由した。併しながら、前記抵当権に附随する売買予約上の権利は、田口の日証に対する債務の完済により消滅している筋合であるから、控訴人等においてこれに基く所有権移転請求権保全の仮登記について移転登記を経たとしても、控訴人等は右売買予約に基く権利を取得し得べき理由はなく、従つて控訴人等がその後田口と共謀してなした所有権取得の本登記は、これを以て被控訴人に対抗し得ないものである。

仮に控訴人等が田口の為に弁済をなした関係であるとしても、控訴人等は右弁済をなすについて何等正当の利益を有しない者であるから、弁済と同時に債権者の承諾を得ない限りは、これに代位し得ないものであるところ、日証は単に田口に登記抹消の委任状を交付しただけのことであつて、右代位の承諾をなした事実はなく、且また右任意代位について民法第四九九条第二項、第四六七条所定の対抗要件を具備するために、債権者日証が確定日附ある書面を以て右代位通知をなし、又は債務者田口が確定日附ある書面を以て右代位の承諾を与えた事実はないのであるから、控訴人等は前記売買予約上の権利を代位により取得したことを被控訴人に対抗し得ないものである。

仮に右の主張が認容せられぬとしても、控訴人等は元来寺川と田口間の売買契約が通謀虚偽表示により無効であり、且既に被控訴人が真実の所有者寺川より本件不動産を買受け取得している事情を知りなが、田口と共謀して前記のような登記をなしたものであるから、控訴人等のなした右各登記は無効である。よつて控訴人等に対して右各登記の抹消登記手続を求める。次に控訴人金城は、被控訴人に対抗し得る正当権原なくして本件家屋に不法占拠しているから、同控訴人に対して右家屋の明渡を求める。なお控訴人主張の留置権の抗弁はこれを争う。控訴人等は元来本件不動産が田口の所有でないことを知りながら、これを不法に領得する意図の下に不法登記をなし、且これを不法占拠するに至つたものであるから、民法第二九五条第二項により控訴人等は留置権を取得し得ないものである。」と述べ、なお控訴人の当審における反訴提起に同意しないと述べた。

控訴代理人は本訴答弁として「被控訴人主張の不動産が元訴外寺川敏夫の所有であつたこと、右不動産について被控訴人の主張するとおりの各登記がなされていることはこれを認めるが、被控訴人のその余の主張事実は争う。

仮に昭和二十八年六月二十二日寺川と被控訴人間に売買契約が成立したとしても、右不動産について被控訴人がなした所有権取得登記は、被控訴人が警察職員を使嗾して田口を強迫してなさしめたものであつて、田口はその効力を否認しているのであるから、右登記は無効であり、従つて被控訴人はその所有権を以て控訴人等に対抗し得ないものである。仮に寺川と田口間における本件不動産の売買が、通謀による虚偽の意思表示として無効であるとしても、右の無効は善意の第三者に対抗し得ないものであるところ、田口は、昭和二十九年九月二十七日日証より金二十万円を、利息日歩二銭七厘、弁済期日昭和二十九年十月二十日の定めで借受けると共に、債務者田口は右弁済期に債務不履行のときは、債権者日証の一方的意思表示により、本件不動産を右貸附金と同額の代金にて売渡す旨の売買一方の予約をなした上、これについて被控訴人の主張するとおりの所有権移転請求権保全の仮登記を経由した次第であるから、右寺川、田口間の仮装売買について善意の第三者である日証は、前記売買予約に基く完全な権利を取得したものである。而して控訴人等は日証の承諾の下に同会社に対する田口の債務を代位弁済したことにより、田口に対する同会社の債権竝に担保権を代位取得したが、前記売買予約に基く所有権移転請求権保全仮登記については、便宜上その代位登記をなすに代えて、その譲渡による移転の附記登記を経由し、次でその所有権移転本登記を経由した次第であるから、控訴人等は右登記を以て被控訴人に対抗し得るものである。よつて控訴人等に対して、本件不動産に関する所有権移転登記竝に所有権移転請求権保全仮登記の移転附記登記の抹消登記手続を求める被控訴人の請求は失当である。

次に控訴人金城に対する家屋明渡の請求に対しては、控訴人等は右不動産に関して生じた左記債権を有するものであるから、これが弁済を受ける迄留置権を行使する。即ち、控訴人等が日証に対する田口の債務を弁済したことは民法第六九八条所定の他人の財産に対する急迫の危害を免れしめるためにいわゆる緊急事務管理をなしたものであり、仮にそうでないとしても、同法第六九七条所定の一般事務管理をなしたものであると共に、遺失物法第一条所定の他人の遺失物件を拾得してこれを返還した行為に準ずべき行為である。よつて控訴人等は昭和二十九年十一月十五日代位弁済として支払つた金二十万円及びこれに対する昭和二十九年十一月十五日から右完済に至る迄年五分の割合による遅延損害金、竝に本件不動産に関して支出した仮登記の移転登記及び所有権移転登記費用の償還を求める権利を有する外に、遺失物法第四条に基き、本件不動産の価格金百二十万円の二割に相当する金二十四万円の報酬を受ける権利を有するのであるから、これが弁済を受ける迄本件家屋を留置する。」と述べ、反訴請求原因として「被控訴人が本件不動産についてなした所有権取得登記は、控訴人等が、前記仮登記によつて保全された先順位においてなした所有権取得登記に対抗し得ないものであるから、その抹消登記手続を求める。」と述べた。

証拠関係について、被控訴代理人は甲第一号証、第二号証、第三号証の一乃至三、第四号証の一乃至四、第五号証を提出し、原審証人寺川敏夫、同秋山政夫、同田中正、原審竝に当審証人田口義雄(但し原審は第一回)の各証言、竝に原審における被控訴人本人尋問の結果を援用し、控訴代理人は、原審竝に当審証人田口義雄(但し原審は第二回)当審証人田中正の各証言、竝に原審における控訴人金城隆四本人尋問、当審における控訴人立石徳義本人尋問の各結果を援用し、甲第二号証は官署作成部分の成立を認め、その余の部分は不知、甲第五号証は不知その余の甲号各証は成立を認めると述べた。

理由

本件不動産が元寺川敏夫の所有であつたこと、右不動産について被控訴人の主張するとおりの各登記がなされていることは当事者間に争いがない。而して官署作成部分の成立については争がなく原審証人田口義雄の証言(第一回)によりその他の部分の成立を認め得る甲第二号証、成立に争のない甲第三号証の一乃至三、原審における被控訴人本人尋問の結果により成立を認め得る甲第五号証と、原審証人寺川敏夫、原審竝に当審証人田口義雄(但し原審は第一、二回)の各証言竝に原審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、左記の事実を認定することができる。即ち訴外寺川敏夫は多額の債務を負担し、債権者より強制執行又は破産申立を受ける虞れがあつたために、田口義雄と共謀して、自己所有の本件不動産を右田口名義に変更して隠匿することを企て、昭和二十八年六月十二日右不動産について売買を原因とする所有権移転登記を経由したが、右登記原因たる売買はもとより当事者間の通謀による虚偽仮装の意思表示であつた。然るに田口は、本件不動産の登記名義人として寺川のため若干の固定資産税を立替えた右立替金、竝に右財産隠匿に協力したことの報酬を併せ、当時における本件不動産の時価額金百六十万円の一割に当る金十六万円の支払を要求したが、寺川においてこれに応じなかつたために、田口は右不動産が自己名義となつているのを利用して、日証より金二十万円を借受けると共に、本件不動産に抵当権を設定し、且右債務不履行のときは、債権者たる株式会社日証の一方的意思表示により、本件不動産を右債務と同額の代金で売渡す形式により、実質上はこれを代物弁済として提供することの一方的予約をなし、昭和二十九年九月二十七日右抵当権設定登記竝に売買予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記を経由したが、右日証は、寺川、田口間の売買が通謀による虚偽の意思表示であることについては善意であつた。一方被控訴人は、昭和二十八年六月二十二日寺川より本件不動産を代金百二十七万七千円で買受けて、当時代金全額の支払を了して、その引渡を受けたが、その所有権移転登記は昭和二十九年十一月十七日に至つて始めて経由した。以上の事実を認定することができるのであつて、他に右の認定を覆すに足る証拠はない。控訴人等は、右被控訴人のなした所有権移転登記は、被控訴人が警察官を利用し田口を強迫してなさしめたものであつて、田口においてその効力を否認しているところであるから、被控訴人はその所有権を以て控訴人等に対抗し得ないと主張するのであるが、右移転登記の原因たる売買それ自体について強迫を原因とする取消がなされたことは、控訴人等の何等主張立証しないところであるに加えて、前記甲第二号証竝に原審証人寺川敏夫、同田口義雄(第一回)の各証言によれば、前記の経緯によつて、本件不動産の登記名義人となつた田口は、その真実の所有者である寺川が、何時でも本件不動産を他人に譲渡処分することを可能ならしめるために、自己を売主とする売渡証、委任状、印鑑証明書等を予め寺川に交付し、同人がこれによつて、田口から直接に第三者に対する所有権移転登記手続をなすことを承諾していたので、被控訴人は寺川から交付を受けた右書類によつて、前記所有権移転登記をなしたものであつて、その間に何等強迫の事実は存しなかつたことが認められるから、控訴人等の右主張は失当である。

ところで成立に争のない甲第四号証の一乃至四、竝に原審証人寺川敏夫、同秋山政夫、原審竝に当審証人田中正、同田口義雄(但し原審は第一、二回)の各証言、竝に当審における控訴人立石徳義本人尋問における供述の一部を綜合すると、次の事実を認定することができる。即ち田口は日証より借受けた前記債務を、その弁済期である昭和二十九年十月二十日に弁済し得る見込がなく、従つてこのまゝ推移するにおいては、寺川、田口間の仮装売買について善意の第三者である日証が前記売買予約を完結して、結局は担保流れとして、本件不動産を取得するに至ることを予測したので同年十月十九日頃予ねて自己の知合であり、また寺川に対して金七十四万円余の債権を有していた関係のある控訴人金城に対して、右の事情を告げると共に、この際日証に対する田口の債務を代位弁済して、日証の有する前記売買予約上の権利を取得しておくことを勧告したところ、予ねて本件不動産について知るところのあつた控訴人金城は、田口の勧告の如くすることは寺川に対する旧債権の取立のためにも有利であることを打算した結果、右勧告を容れることとしたが、当時同控訴人は手許に金員の用意がなかつたために、田口を介して控訴人立石に右の事情を告げて、代位弁済のための金二十万円を調達せしめた。而して控訴人金誠は右の金員を訴外山口某に預け、同人を同控訴人の代理人として日証に田口と同行せしめた上、日証の承諾の下に田口のために代位弁済をなさしめ、よつて日証より、抵当権設定登記竝に仮登記の抹消もしくは移転登記のいずれにも使用し得べき趣旨の下に、白紙委任状の交付を受けた。よつて控訴人金城は抵当権設定登記についてはその抹消登記手続をなすと共に、仮登記についてはその代位登記に代えて、譲渡による移転の附記登記をなすこととしたのであるが、その際控訴人金城は、控訴人立石より借受けた金二十万円の担保として、将来売買予約の完結により取得し得べき所有権の二分一を、その期待権として予め提供する趣旨の下に、形式上は控訴人両名が共同して日証より右所有権移転請求権の譲渡を受けたものとして、昭和二十九年十一月十七日その移転の附記登記を経由した。併し前記代物弁済をなした者は控訴人金城であつて、控訴人立石は単にその金員を貸与した関係であるに過ぎぬから、同控訴人は何等日証に代位した関係はなく、従つて控訴人立石に関する限りは、前記所有権移転請求権保全仮登記移転の附記登記はその登記原因を欠くものであつた。而して控訴人等は次で昭和三十年二月十九日田口より控訴人両名に対する昭和二十九年十一月十五日附売買予約の完結を原因とする所有権移転登記を経由した。以上の事実を認定することができるのであつて、当審における控訴人立石徳義本人の供述中右の認定に反する部分は当裁判所の信用しないところであり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。なお被控訴人は、右弁済は、田口が控訴人両名から借用した金員を以て自ら弁済したものであると主張するけれども、前記各証拠によればその然らざることは明であるから、被控訴人の右主張はこれを採用することができぬ。

次に被控訴人は控訴人等主張の代位弁済は、民法第四九九条第一項所定のいわゆる任意代位であるから、同条第二項により、債権者日証が確定日附ある証書により代位通知をするか、または債務者田口が確定日附ある書面を以て代位の承諾をせぬ限りは、右代位を第三者に対抗し得ないものであるにかゝわらず、控訴人等はかゝる手続を履践していないから、被控訴人に対して右代位を対抗し得ない旨を主張するのであるが、民法第四六七条が、債権譲渡について第三者に対する対抗要件として、確定日附ある書面による通知または承諾を必要としているのは、債権を譲渡した旧債権者と債務者との通謀により、債権譲渡の日時をほしいまゝに遡らせ、よつて右債権について、他に利害関係を有する第三者を害することを防止する法意に出たものであるから、この場合における第三者とは、「債権そのものに対し法律上の利益を有する者」換言すれば当該債権について譲受人の地位と両立しない法律上の地位を取得した者を指称するのであつて、民法第四九九条第二項が同法第四六七条の規定を準用する法意もこれと異るところはないと解すべきであるから、被控訴人のように単に債権の担保たる不動産について所有権を取得したことを主張するに過ぎぬ者は、右の「第三者」に包含されぬものというべく、この点に関する被控訴人の主張は失当である。

そこで控訴人等は果して田口との売買予約の完結により取得したと主張する所有権を以て、被控訴人に対抗し得るか否かについて判断するに、控訴人立石は何等日証の有する仮登記権利について代位した関係でないことは前認定のとおりであるけれども、控訴人金城は前記弁済の結果として、日証が仮登記によつて保全した売買予約の上の権利について代位したものであり、従つて一応右仮登記の効力を主張し得ることは前段に認定したところによつて明である。しかしながら売買予約なるものは元来一の債権契約であることを本質とするのであつて、その仮登記によつて保全せられる場合には、かの代物弁済予約と相並んで、金銭債権の担保たる経済的機能を果たし得ること、従つてまた代位弁済の場合において代位の目的となり得ることも、その債権契約たる本質を変更するものではない。従つて右売買予約における予約義務者が果して真実に右売買予約の目的物件の所有者であるか否か、その物権取得の法律関係について予約権利者が善意であるか否かは、右売買予約の完結により物権的変動を生ずべき時を基準としてこれを定めることを要し、売買予約が成立した時を基準としてこれを定めるべきものではないと解するを相当とする。そこで今これを本件について見るに、控訴人等は前記代位弁済をなすに当つて、田口より本件不動産の仮装売買の事情を告げられ、従つて田口が真実の所有者でないことを知つていた関係であり、従つてその後において右売買予約が完結せられた時においてはもちろん右の事実について悪意であつたことは、前に認定したところによつて明であるから、控訴人金城は右売買予約の完結によつて、高々、田口との間にいわゆる他人の物に関する売買契約を成立せしめ得るに止まり、未だ本件不動産の所有権を取得し得ないものであり、従つて控訴人金城に対する貸金担保の意味で、形式上前記仮登記の移転登記について共同譲受人として登記を経た控訴人立石も、未だ本件不動産について所有権を取得するに由ないことはもちろんであるとしなければならない。然るに被控訴人は、昭和二十八年六月二十二日本件不動産をその真実の所有者である寺川より買受けた上昭和二十九年十一月十七日その所有権取得登記を経由したことが前認定のとおりである以上は、控訴人両名に対して本件不動産所有権の確認竝に控訴人等が右不動産についてなした所有権移転登記竝に所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続を求める被控訴人の請求は理由があるものとしてこれを認容しなければならぬ。

そこで控訴人金城に対して家屋明渡を求める被控訴人の請求について判断するに、被控訴人が昭和二十八年六月二十二日寺川より本件不動産を買受けた後間もなくその引渡を受けたことは前に認定したとおりであつて、原審証人寺川敏夫、同秋山政夫の各証言竝に原審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は右引渡を受けた家屋を掃除施錠して保管していたところ、前認定の経緯によつて本件不動産に関する所有権移転請求権保全仮登記の移転登記を経由したことによつて、実際は本件不動産の所有権を取得した如く思料した控訴人金城は、昭和二十九年十一月頃被控訴人に無断で本件家屋に侵入占拠し、現に引続いてこれを占有している事実が認められる。

然るに控訴人金城は、右不動産について同控訴人が支出した諸費用、竝に遺失物法の準用による報酬金の支払を受ける迄留置権を行使すると主張するのであるが、占有が不法行為によりて始まりたる場合には、留置権を主張し得ないことは民法第二九五条第二項の規定に照らして明であるところ、控訴人金城が本件家屋を不法占拠したものであることが前認定のとおりである本件において同控訴人の右留置権の主張はその余の争点について判断する迄もなく失当であるとしなければならぬから、同控訴人に対して本件家屋の明渡を求める被控訴人の請求も理由があるものとしてこれを認容すべく、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当であるから、本件控訴はこれを棄却しなければならぬ。

次に控訴人の当審における反訴の提起は、被控訴人の同意しないところであるから、右反訴は不適法としてこれを却下すべきである。

よつて民事訴訟法第三八四条、第三八二条、第九五条、第九三条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中正雄 観田七郎 河野春吉)

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